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人材育成の観点から「経営」「教育」「メディア」について考えます。

イチロー選手は本当に衰えたのか。「年齢」が生む世間の空気。

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イチロー選手の心身に関するデータに特化した骨のある記事が読みたい

イチロー選手のシアトル・マリナーズへの入団、そして、特別補佐への就任と、サプライズなニュースが飛び交っていますね。

 

さまざま人が、イチロー選手の進退について語っていますが、私がずっとモヤモヤしているというか、知りたいなと思うのは、タイトルのとおり、イチロー選手は本当に衰えたのか、ということです。


イチロー選手の戦績を眺めていると、確かに盗塁数や打率が落ちているのですが、チームの中での立場や役割が変わっていることもあり、これらの数値から何が言えるのかよくわからないところがあります。動体視力の低下なども聞いたことがありますが、その指標は何なのか、いまいちピンとこないというのが素人なりの気持ちです。


特に知りたいのは、

  • どういう点が技術的に落ちてきているのか。それがわかる客観的なデータは何か
  •  現在の技術がメジャーの基準でいえば、何がどこまで満たしていて、何が満たしていない状態なのか
  •  世間の「年齢的に…」という空気が及ぼす心理的な影響はないか

という点です。


ずっとイチロー選手を追い続けてきたジャーナリストや専門家に、読み応えのある記事をぜひ書いてほしいと思います。

 

「年齢から言えば…」や「年齢的に…」というのは、技能が落ちているという事実があって、その要因を推測するときに出てくる言葉であって、年齢だけを強調されても、腹落ちしにくいのが実際のところです。

 

 

◆「もう歳だから」という言葉

「もう歳だから」という言説は、巷でよく聞きますが、これは肉体的な衰えもあるものの、どちらかというとそれ以上に精神的な衰えからきているものでないかなと思う時があります。


「私はもう歳だから、若い辻さんに頑張ってもらって…」

 

職場では、頑張る=パフォーマンスを発揮するという文脈で語られることが多い。

 

しかし、周りを見渡すと、私以外、ほとんど若い人はいない。

 

職場における若い人=がんばる=パフォーマンスを出す
頑張る人:N=1

 

職場における若くない人=がんばらない=パフォーマンスを出さない
頑張らない人:N=50

 

どーするねん!これ。

 

若い人が1人のみとまではいかないものの、こういう年齢構成の職場、増えていないですかね。

 

「若い辻さんには頑張ってもらって」という発言は、「俺、もう疲れたから、真剣に仕事しないよ」と宣言しているように聞こえます。

 

本当に若手の活躍を願うシニアは、こういう発言はしない気がします。さりげなくサポートしながら、活躍の場を与えてくれる。

 

高齢化が進んでいます。定年制の廃止も議論されるようになってきました。モチベーションが下がったシニア社員をどのようにマネジメントしていくかという研究も、注目されています。

 

人生100年時代といわれる時代のなかで、これまで年齢に抱いていた固定観念は、変えていかねばならないのかもしれません。

 

50歳までマネジャーやってから、プレイヤーに戻ったとして、肉体的に衰えがあったとしても、圧倒的な知識量と熟練の技を発揮して、プレイヤーの中でのエースになってもいいんじゃないかと思います。若手とは異なる活躍の仕方があるのではないかと。

 

輝くシニアがいれば、きっと若い人のロールモデルになるはず。

 

輝くシニアがたくさんいれば、若い人は目指すべきキャリアを描けると思います。

 

一方で、輝くシニアがいなければ、若い人は会社にいる将来を見失うかもしれません。

 

 

イチロー選手のこれからがヒントになる

「失敗した時でも、成功した時でも、サヨナラホームラン打った時でも、三振した時でも、何があってもコンスタントにやり続けているイチローさんがいるからこそ4000本という数字があるんじゃないかなっていうふうに思いました」

 

イチロー選手が4000本安打を達成した時、ニューヨークヤンキースチームスタッフ、アレン・ターナーさんが、特集番組で述べた言葉です。

 

僕はこの言葉に感銘を受け、一流の努力というのはそういうことなんだと痛感しました。

 

今回の特別補佐就任時、イチロー選手はインタビューでこう述べました。

 

「僕は野球の、何て言ったら…研究者でいたいというか。自分が今44歳でアスリートとして、この先どうなっていくのかというのを見てみたい」

 

イチロー選手がこれから見つけていく答えは、アスリートだけでなく、同世代の多くの人々にとって、働く上でのヒントになるのかもしれません。


来年、ガンガンに先発出場するイチロー選手が見られることを、僕は心から願っています。

 

それでは、お元気で。

「なぜ新聞を読まなくなったと思う?」の問いに考えること

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大学にいると、メディア関係者からこの問いをよく聞きます。

 

僕自身もなぜ読まれなくなったのかということは常々考えてきました。

 

結論から申し上げると、最近思うのは、「そこにあるもの」ではなくなったからではないかということです。

 

私は忙しい日でなければ、大体、全国紙を全部ざっと目を通します。なぜなら、新聞は読み比べが一番面白いからです。

 

気になるニュースがあれば、そのテーマの記事をじっくり読み比べると、どの社がどこに力を入れていて、どこに強い情報源を持っているかが見えてきます。記者の息づかいが感じられて、面白いです。右や左などの政治思想よりも、よく現場で聞き込みしているなぁとか、捜査関係者と太いパイプを持っているなぁとか、そういうことを記事から読み解く方が好きです。

 

全紙読むのに最も便利なのは、図書館。勤務している大学の昼休みに図書館に行くと、3階に新聞閲覧コーナーがあり、一つの机に1紙広げて見られるようになっていました。

 

ただ、ここには先客がいて、大体同じ人が同じ時間帯に同じ新聞を読んでいることが多く、私は何紙か読んだ後に、学会誌などをぺらぺらしながら、その人たちが読み終わるのを待ちます。結構な時間読んでいるので、熱心な人たちだなぁと思っていました。

 

ある日、図書館のレイアウトが変更されて3階の新聞閲覧コーナーがなくなり、1階入り口近くに新聞ラックが設置されるようになりました。それに伴い、机がなくなりました。

 

これからは、あの熱心な新聞ファンの職員に1階で遭遇することになるなぁと思っていたら、その日からその人たちと全く遭遇しなくなりました。

 

そう、おそらく彼らは、新聞を読みたくて新聞閲覧コーナーにいたのではなく、昼休みに静かな部屋でゆっくりくつろげる居場所がほしくて、新聞閲覧コーナーにいたのです。

 

新聞は何が何でも読もうとするものというよりも、そこにあるから何となくぺらぺら読む。実はそういう人が大半なのではないでしょうか。

 

そう考えると、昔は今よりも、私たちの近くに何となく新聞があった。しかし、今は新聞よりも何となく近くにあるものが出現した。

 

今、電車に乗っていると、多くの人がスマホを眺めています。電車の椅子に腰をかけ、真剣な顔をしてスマホ触っている年配のビジネスパーソン。窓に反射したスマホの画面に映し出されるのは、パズルゲーム、シューティングゲーム格闘ゲーム

 

もはや新聞の競合は、隣の大手紙、ブロック紙、地方紙ではありません。ゲーム会社であり、Youtuberであり、買い物サイトなのかもしれません。

 

みんなのポケットに入っている機械で、お金を払ってでも新聞を読もうとさせられるか、ということなのだと思います。

 

確かに、質の高い記事を出し続けることは重要であることは変わりませんし、マスメディアしかできていない取材はたくさんあります。しかし「なぜ新聞を読まなくなったと思う?」との問いは、記事の質を問う文脈だけで語られがちですが、まずは「そこにあるもの」である必要があるし、そしてゲームよりも見たいと思える仕掛けを、デジタル・アナログで、商品だけでなく、流通、価格、プロモーションの戦略を総合的に考えていかなければなりません。

 

新聞の面白さ、ちゃんと多くの人に届いてますかね?

 

最近、なんとなくそういうことを考えていました。

 

それでは、お元気で。

 

 

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ワークショップを実践!新人記者が活躍するために必要な「学び」とは!?

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 先日、マスコミの内定者を対象に「記者の学びを語り合う 理論と実践のワークショップ」を開催させていただきました。

 

4月からマスメディアへ就職される皆さん、誠におめでとうございます。記者の皆さんの奮闘に、これからの日本の未来がかかっていると言っても過言ではありません。情報の氾濫する時代だからこそ、プロとして良質な情報を生み出していかなければなりません。

 

とはいえ、入社前は、どうやって組織に適応し、活躍していけばいいのか、いまいちわからず、大きな不安を抱えている人が多いよう思います。

 

今回のワークショップはそうした不安を解消し、予期的社会化を狙った初めての試みでした。告知もうまくできなかったように思いますが、それでも、全国紙、ブロック紙、地方紙、テレビの記者職・ディレクター職の内定者約15名が参加してくれました。

 

 

◆ワークショップの内容

プログラムは、「つかみ」ー「理論」ー「演習」ー「レクチャー」を1サイクルとし、主に3テーマで実践しました。ワークは、4ないし5人を1グループとした3つのグループで取り組んでもらいました。

 

テーマ1:個人の学び

・記者の職務意識の醸成と内発的動機づけ

「記者・ディレクターの役割」「どんな記者・ディレクターになりたいか」「どんな記事・番組を作りたいか」を紙に書き出してもらい、記者としての役割意識や信念について、グループで対話をしてもらいました。ここで書いた内容は、参加者自身が記者を志した軸となるもので、改めて語り合うことで、業務へのモチベーションを高めます。

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OJTでの学び方

記者の職場は、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)が基本と言われますが、正統的周辺参加を行う状況でもなく、ほとんどが計画的ではありません。メンターが振り返りを促進することもあまりないように思います。

 

そこで、経験学習の理論を紹介し、個人による振り返りと概念化の重要性を強調しました。そして、実際に二人一組でインタビューを実践、その後、振り返り、概念化を体験してもらいました。さすが、記者になる参加者はコミュニケーション力が相当高く、ガンガンに質問していました。

 

ここで重要なポイントは、「取材をされる」という経験が得られることです。記者は取材することはあっても、取材されることはない。ここで取材をされる経験を得ることで、取材の受け手側の気持ちを理解して仕事に取り組めます。

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テーマ2:個人と組織の関係

・記者のプロフェッション的意識と組織的制約

記者はプロフェッション(=専門職)の意識が高いと言われています。つまり、組織倫理とジャーナリストとしての倫理の衝突が、時折、個人に内在化し、葛藤をし続ける状態が生まれます。マスメディアの記者は、ジャーナリストであると同時に組織人でもあるので、さまざまな制約を受けながら、社会に資する情報を発信しなければなりません。そこで、いくつかのケーススタディに取り組んでもらいました。

 

例えば、

 

ネタ元からスクープになりそうなネタを教えてもらった。 ネタ元には「まだ報道するのはしばらく待ってくれ」と言われた。デスクに報告すると「抜かれたらどうするんだ、すぐに出せ」と言われた。さぁどうする?

 

リアルですね。笑 参加者からは「あ、ありそうー>_<」というような声がしばしば上がっていました。当然そうです。なぜならお題は、私の経験や、第一線の記者が夜な夜な電話をして語ってくれる悩みを基に作成したからです。笑

参加者は近い将来遭遇する局面ということもあって、かなり活発な議論が交わされていました。

 

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テーマ3:先輩たちの知恵

・敏腕記者たちのインタビュー調査からの示唆

私は、研究を通じて新聞協会賞を受賞した記者や、調査報道の先駆者らに、インタビューをしてきました。そこで得られた知見を「思考」「行動」「その他」と3つのテーマに分けてレクチャーしました。また、私自身の記者経験や文献研究の話も補足し、明日からすぐに使える取材のコツを伝えました。参加者はかなり真剣な眼差しで、ペンを走らせていたのが印象的でした。

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・求められるスキルの整理

最後のまとめとして、参加者自身がこれから必要だと思うスキルをポストイットに書き込んでもらい、模造紙でグルーピングしてもらいました。今、自分の力で、何が足りてなくて、これから何が必要なのかをグループで整理し、頭の中で漠然と抱えている不安を解消してもらいました。

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◆満足度調査

ワークショップ終了後、満足度調査を行いました。「とても満足している」から「まったく満足していない」までの5段階で質問したところ、なんと回答をしてくださった参加者全員が「とても満足している」という結果でした。

 

自由記述回答からは、

  • そもそも、このような学びの場がなかったので、その点で非常に大事なイベントだった。
  • 支局に行ってもアタフタすることなく取材に望めそうで安心した。
  • これから直面しうる状況に対して自分が取りうる行動を知ったことと他にも選択肢があることを知れた。
  • 同期がどんな思いで記者を志すようになったのか、重要なテーマだけれどもなんとなく照れ臭くて話さないようなことを話すことができてよかった。

 

 

など、概ね良い感想をいただいていて、たった1日だったけれども、開催してよかったと思いました。

 

今回、ワークショップを開催してみて思ったのは、記者同士がそもそも論で対話をする場が圧倒的に足りていない、ということです。「もっと対話する時間がほしかった」。そんな声が多かったです。

 

なぜ記者を志したのか、何をする仕事なのか、何を目的としているのか。これは内発的動機づけにつながるもので、入社してからも必要なことだと思います。

 

 

◆咀嚼して伝える

講演会などを通じて、大きな業績を残した記者から話を聞く機会を得ることがあります。大変勉強になりますし、もっと業界の横のつながりが活発化して、学び合う職業集団になればと願っております。

 

その一方で、そういう個々の知恵を「ナマゴエ」として聞くだけではなく、咀嚼して伝えられる人材も必要のように思います。とりわけ新人には咀嚼して伝えないと伝わらないことも多いです。

 

「記者の妙技は一般化できない」と一蹴するのではなく、できるだけ言語化して学習できる教材に形を変えていく。私はそこにとことんこだわりたいと思っています。

 

ニッチで、小さな活動ですが、これからも記者の学びの場を、コツコツ地道に開催していけたらなと思います。

 

ご興味のある方がおられましたら、レジュメ(ダイジェスト版)などをご提供させてもらいます。ご連絡ください。

 

それでは、お元気で。

スクープを出す前夜に思うこと

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◆スクープとは◆

スクープといえば、世間に知られていない注目すべきニュースをいち早くつかみ、大きな見出しを付けて大々的に報じるというイメージがあります。時には、多くのメディアが追いかけて報道し、ウェブだとバズったり、週刊誌だと完売したりと、国や自治体を動かすほどの爆発力を持つこともあります。一時期「文春砲」という言葉も流行りましたね。

 

スクープは、どのようにして生まれるのでしょうか。私の経験や研究からすると、きっかけはさまざまです。情報提供、いわゆるタレコミ、記者の取材の中での違和感、資料の読み込み・・・・・・、あらゆるところにネタは眠っています。

 

マスコミ業界では「端緒」と呼びますが、それをつかむことが最も重要だといわれます。ただし、いくらきっかけをつかんだとしても、報道までこぎつけるには多くの関門が存在し、ここには記者の相当な個人技ないしチームワークが求められます。

 

取材で9割までファクトを積み重ねられても、あとの1割がどうしても詰めることができない。そして、ボツになってしまうネタがほとんどです。

 

そんななかで、苦労してスクープを報じるまでこぎつけ、翌日報道することが決まった前夜、記者たちは何を思うのでしょうか。

 

 

◆初めて知る「怖さ」◆

「他社にはどこにも載っていないってよ。よかったな」。入社して1年半が経った頃、私が初めてスクープと呼べる事件記事を書いたとき、デスクにそう言って肩をたたいてもらった記憶があります。

 

確かに報われる気持ちもあり、嬉しかった記憶があります。しかし、それ以上に迫ってきた感情が「怖さ」でした。

 

大丈夫だろうか、本当に間違っていないだろうか、誰かに迷惑がかからないだろうか、どんな影響が出るのだろうか。

 

当時はこのような気持ちが芽生えるのは予想外で、自分の感情に驚きました。

 

基本的にスクープは、公式な発表に基づいて報じるものではありません。本人、もしくは立場のある人、責任者、客観的な証拠などから裏付けをとり、限りなく100%近い確度をもって報じます。しかし、どこまでいっても、限りなく100%近い形なのです。

 

しかも、スクープを出せば続報を求められるのが常なので、次の展開はどうしよう、明日からどう動こう、取材応じてもらえるかな、などといったことも考えねばなりません。喜びに浸っている余裕はありません。

 

本当に少し気持ちが楽になるのは、一連の報道が終結を迎えて、世の中が少し良い方向に向いたかもしれないと思えた時でした。

 

 

◆爆発力をかみしめて◆

最も大きな影響を持つ報道形態としては調査報道があります。社会に存在する不正や腐敗を独自の取材で暴いていくスタイルの報道です。

 

研究の一環で、調査報道によって新聞協会賞を受賞した記者にインタビューをさせてもらった時の言葉が印象的でした。

 

「手放しで、笑顔で喜べる話でもないですよね」。

 

正義は一つではない。片方の正義を立てれば、もう一方の正義は失脚する。正義と正義の相克の狭間で、記者は常に葛藤に苛まれています。

 

スクープではありませんが、私は記事を出す中で、苦情を受けたこともあります。

 

全然ダメな記事だね、何であんなふうに報じたの、あの記事のせいで迷惑している。

 

直接言葉を浴びせられると、やはり辛いものがあります。

 

しかし、こういう声を受け止め、常に怖さを抱えることはある意味、健全なことなのかもしれません。おごりやプライドで筆を滑らせることがあってはいけません。

 

報じた後の爆発力を知るからこそ、慎重を期す。それが送り手に求められる一つの姿勢であると思います。

 

今回は、スクープ前夜の気持ちを振り返り、送り手が抱く怖さについて考えてみました。

 

SNSで何気なく発信することも、大きな影響を持つことがありますね。誰でも発信できる時代だからこそ、どんな人にも慎重さは、ある程度求められるのではないかと思います。

 

それでは、お元気で。

 

 【ジャーナリズム人材育成論】

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【ワークショップの参加者募集中!】記者職内定者対象「記者の学びを語り合う理論と実践のワークショップ」を開催させていただきます!

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日時:2018年3月18日(日)13時半~17時半

場所:早稲田大学大隈記念タワー(26号館)501教室

参加費:無料

対象者:今年4月から記者になる方

定員:20名(定員になり次第、締め切り)

申し込み:以下のURLにアクセスし、申し込みフォームに記入して送信してください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScrzlmXPhesgZO325Xjil595AqsZXhBzxA41FMDdaUOpOEzrg/viewform

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2018年3月18日(日)に、

「記者の学びを語り合う理論と実践のワークショップ」と題してイベントを開催させていただきます。

 

多くの大学4年生ないし大学院2年生は、もうすぐ入社ですね。不安と期待が入り交じる季節に差し掛かりつつあります。

 

・一人前になるということはどういうことか

・職場で学んでいくということはどういうことか

・どんな苦労が待っているのか

・先輩たちは修羅場をどのように切り抜けてきたのか

・優秀な記者はなぜ優秀なのか

 

きっとこのようなものに似た疑問をお持ちなのではと思います。

 

近年は、研修イベントを企画する部署ができた会社もあり、入社すると少なからず研修を受けるかと思います。それはそれで必要ですが、私は少し違った立場から、視点から「刺さる」知恵をご提供したいと考えています。

 

それは、「学習とはなんぞや」、「組織とはなんぞや」といった経営学の領域で、実証的に提唱された理論をご紹介しつつ、若干のアカデミックフレーバーを散りばめながら、手と頭と口を動かしながら学んでいただけたらと思っています。

 

 

私は、これから記者になるみなさんに、「役立つ知恵」をお渡ししたいとかねてからずっと思い続けてきました。

 

正直に言います。新人記者の時代は、苦労します。まぁ、どんな会社に入っても大体はそうだろうけど。

 

かくいう私も新人記者の時代がありました。警察署に取材に行くと、誰に声をかけていいのかもわからず、思い切って捜査員に声をかけるとしっしとあしらわれ、先輩記者たちも「とりあえずやってみろ」と言ってほとんど何も教えてもらえず、朝から晩まで走り回るといったところからスタートしました。

 

「新人は変に色がついていない方がいい」。この真っ白なキャンバス言説は、未だに残っていると思います。確かに、記者は往々にして突破力が必要な局面が多く、知識が先行して二の足を踏むようでは成長を阻害しかねないというのもわかります。しかし、人員削減で地方支局が疲弊し、近くに見て学ぶ先輩の姿も少なくなり、めまぐるしくメディア業界の情勢が変わっていく今の時代には、じっくり手間ひまをかけて育てていくシステムが崩壊しつつあるのではないでしょうか。そう、無駄に苦労している暇はない。さっさと一人前になってくれ。現場からはそんな声が聞こえてきます。

 

私は、記者の人材育成の研究を始めてから、何人もの記者やジャーナリズム関係者に会ってきました。これは記者の一つの特徴かもしれませんが、インタビューを断られたことは一度もありません。何なら、インタビューが終わったら、大体飲みに連れていってくれました。(笑)

 

あぁ、これは次世代に「生きた知恵」をバトンタッチする役割を任せられているんだなぁと思いました。

 

そこで、今年4月から記者職に就くみなさんを対象に、できるだけ体系立てて「記者の学び」をお伝えし、考えてもらう機会を持とうと思ったわけです。初の試みです。それこそ、私が真っ白なキャンバス状態です。(汗)

 

みなさんで楽しく話し合えたらと思います。入社直前のお忙しい時期で恐縮ですが、ご興味のある方はぜひお越し下さい。また、ご興味のありそうな方がおられたら、お知らせいただけますと幸いです。

 

 

ワークショップ内容概要(一部変更となる可能性がございます)

1.OJTでどうやって学ぶの? :経験から学ぶ方法とインタビュー演習

2.仕事の悩みってどんなものがあるの?:現場や職場での葛藤をケーススタディで議論

3.先輩記者たちがやっている取材のコツって何?:ヒアリングから見えるTipsを紹介

4.どんな記者になりたいか、身につけるべき技能は何かを考えてみよう。

 

ファシリテーター:辻和洋(つじかずひろ)

読売新聞大阪本社社会部記者。科捜研鑑定資料ねつ造事件や公立高校PTA会費流用問題などをスクープ。東日本大震災大阪取材班第1陣として発災翌日から宮城県入り。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。現在は、記者や学校教員など、専門職人材の育成、マネジメントを研究。公益社団法人「Chance for Children」メディアディレクター。著書「人材開発研究大全」(共著)。

 

※このワークショップは、人材育成の理論に基づいて構成しています。

1. OJTが主とされる職場環境において、個人による技能習得の学習方法の枠組みを、インタビュー演習などを通じて体感する。コルブの経験学習サイクルによる学習効果の理解を意図する。

2. 組織への定着化を促すことを狙いとして、入社後に起こるであろう悩み、葛藤をケーススタディーとして取り上げ、議論する。ワナウスのリアリスティックジョブプレビュー(RJP)におけるワクチン効果を意図する。

3. インタビュー調査や文献調査を元に、理論では網羅しきれない記者の実践知を言語化して紹介する。学習転移による職場での早期技能習得を意図する。

 

日本人はニュースに対して受身な国!?

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 ◆ニュースは双方向で議論されているか

IT技術の進展により、誰もが情報の発信者になれると言われて久しくなりました。手軽に機材やソフトが手に入るようになり、技術さえあれば、プログラミングをしてサイトを開設し、記事や動画を編集し、インターネットに載せて発信することが、目新しいことではなくなりました。

 

このような環境の変化によって、情報の送り手、受け手という言葉自体も曖昧なものになりつつあります。

 

しかし、実際、双方向の情報交換って、ニュースにおいてはどうでしょうか。

 

 

◆日本のメディア利用事情

毎年、世界のメディア事情を調査しているオックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が興味深い結果を報告しています。

 

同研究所は、アメリカ地域、ヨーロッパ地域、アジア地域などを中心に世界36カ国で調査しています。日本では約2000人を対象に分析されました。

 

日本のインターネット普及率は94%と、世界トップクラスの普及率を誇っており、最もニュースを見るメディアとしては、テレビとオンライン(インターネット)が拮抗しています。オンラインニュースが身近になってきているといえます。また、デバイス別で見ると、パソコンが減少基調にあり、スマホが増加傾向、タブレットはほぼ横ばいです。確かに、街中を歩いていてもスマホを覗き込む人が多く、これらの調査結果は納得できます。

 

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『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism 

 

スマホなどの最新機材を持ってニュースを見ていることがうかがえるのですが、実際、どれだけ駆使しているのでしょうか。ニュースとの関わり方の指標として、注目できるのが、ニュースに対してコメントしたり、シェアしたりする人の割合です。

 

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『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism

世界で最下位。いくつかの国をピックアップした次の経年調査で見ても、シェアやコメントは増加していません。というより、シェアに限っては下がっています。

 

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『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism

日本はニュースがあまり好きではない国なのでしょうか。しかし、次の結果を見ると、嫌なニュースをあえて避けることもしていません。

 

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『Digital News Report 2017』Reuters Institute for the Study of Journalism

 

ここからうかがえるのは、日本はニュースに対して受身な国である可能性があるということです。情報に対して、意見を持ったり、それを言葉にしたりすることが苦手なのかもしれません。

 

近年では、テレビのニュース番組の中で、リアルタイムでツイッターのコメントが紹介されたり、番組に直接コメントを送ったりするようになりました。しかし、世界的に見れば、このようなコメントを活用している人は少なく、ニュースにおける双方向の言説空間は、盛り上がりに欠けているともいえそうです。

 

◆声をあげやすい環境

世論の声というのは、大きな力を持っています。私が調査報道を行ったときは、世論の声によって、制度が変わるということを目の当たりにしました。記者のときは声なき声をすくい上げることが使命の一つだと思っていました。

 

しかし、現代は、個人でも声をあげやすい環境があります。最もおそろしいのは、社会問題に対して無関心であること、意見を持たないことだと思っています。

 

日本は、将来の方向性を決める大きな選択が迫られている課題が山積しています。安全保障、自由貿易社会保障、税金……。我々は次の世代に何を残すことができるのでしょうか。

 

ネット上の公共圏がもっと盛んになり、国民全体できちんと権力を監視ができれば、初めてニュースメディア2.0ともいえる環境が整うではと考えます。

 

それでは、お元気で。

本を企画するときに考える5つのこと

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◆本の企画の実践知◆

新聞社を退職してから、私は本を編集する仕事をしてきました。ジャンルは学習要素を含んだビジネス書です。

記事と本は、同じ文章を扱うという意味では親和性が高いのですが、情報量が全く違うので、それに伴って視点が異なります。

さらには、学習要素を含む本では、読者に学びを促す設計がなされていなければなりません。インストラクショナルデザインという分野では、ADDIEプロセスやARCSモデルなど、教育の設計方法について解説されています。

このような教育工学に基づいたフレームワーク援用した設計方法については多数の書籍が出ているので、そちらを読んでもらえればと思うのですが、ここでは、私が編集者の仕事をしていて、本を企画する際に考えていることをまとめたいと思います。

 

 

◆本を企画する5つのフロー◆

1:時流をつかむ

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今世の中の動きはどちらに向かっているのか、どういうコンテンツが求められているのか、予測します。そのための情報収集は欠かせません。ニュースを見たり、本屋に足を運んで平積みの本を眺めたりします。「あぁ、世の中の多くの人は、コミュニケーションに悩んでいるんだなぁ」、「自身のメンタルケアに関心がある人が多いのかなぁ」といった大きな流れを読み解きます。そして、半歩先のアイデアを練っていきます。重要なのは、「半歩」です。あまり先を行き過ぎるテーマだと大勢の読者はついてこないからです。自分の感覚がずれていないか、職場の同僚や友達と雑談をしながら確認することもあります。

昨今では、ビッグデータの活用が重要になってきていると思います。マーケティングリサーチによって分析された結果を参考にして、数字から読者の心理を読み取ることもあります。

「今、働き方改革が大きなうねりとなっているけど、その後はどんなものが求められるのだろうか」といった具合に、現在のブームから派生して、引き起こせそうなブームを考えるのも重要です。

 

 2:テーマを設定する

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イデアはできるだけたくさん挙げますが、テーマは広すぎず、狭すぎずを心がけます。本は内容にもよりますが、大体、1冊10万字前後と考えて、その分量に耐えうる情報量を持ったテーマかどうかを考える必要があります。 

もっと端的にいえば、私はテーマが浮かんだら、5章立てで内容がパッと考えられるかを頭の中で実践してみます。思い浮かんだら、採用。浮かばなかったら、別のテーマと組み合わせたり、切り口を変えたり、もう少し広いテーマでできないか再考したりします。そこで面白そうなテーマにならないときは、ボツにします。

 

 3:著者を選定する

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テーマに見合った著者を探します。これまでやりとりした実績のある著者がテーマに合うならよいのですが、そうでない場合は、新規開拓をします。新しい著者を選ぶ場合、肩書きやこれまでの出版実績がかなり重要視されますが、まず私は、テーマに関する本を何十冊と「パラ読み」して、すっと頭に入ってくる本を選抜していきます。

そして、選抜されたいくつかの本から、著者の執筆実績や経歴、そして「はじめに」と「あとがき」をしっかり読みます。忙しい著者であれば、本文はライターが書いていることもあるのですが、「はじめに」や「あとがき」は本人が書いていることが多いですし、人柄や思想性が伝わってくるので、かなり入念に読みます。

 

 4:章立て

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本を作る際の章立ては、著者がすべて考える場合もあるようですが、私は、仮の章立てをたたき台として作成し、著者と調整することが多いです。章立てで意識するのは、体系的かつ構造的な章立てにすることです。理想は、1、2、3、4、5章のタイトルがモレなくダブりがない体系になっていて、それぞれの章の節タイトルもモレなくダブりがない構造になっているようにすることです。

こうすると、読者の頭に本の内容がとどまりやすくなり、また読み返す際もどこにどんな内容が書いてあったのか探しやすくなるからです。一方で、それに固執しすぎて、質が下がってしまうのは本末転倒なので、なるべく「遊び」の部分、挑戦的な部分を入れるようにしています。例えば、本の最初のページに写真を挿入したり、類似する本と比べてもあまり見たことのない章を挿入したりします。読者に目新しさ、好奇心をそそるための工夫です。

 

 5:企画を一枚にまとめる

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どんなにいい企画を考えても、その企画が通らなければ意味はありません。端的にわかりやすくメッセージを伝えるために、アイデアを一枚にまとめます。一枚にまとめられないというのは、まだアイデアが散漫になっていたり、芯の部分が弱かったりするときが多いです。

意思決定者は、売れるかどうか、面白いかどうか、という視点で見ていることが多いので、わかりやすいタイトルをつけること、根拠はなるべく数字で示すことを心がけます。

 

 

◆文章は生き物◆

編集者は、本を手に取り、章立て、文章、著者など、さまざまな情報に目を通します。その本が、どれだけアイデアを練り込んでつくられたのかは、読んでみるとすぐにわかるでしょう。本は、その記された文章以上にメッセージを発するものだと思います。細部にその本の制作に携わった人々の思いを感じることも少なくありません。

だからこそ、本の制作の出発点となる企画が、盤石なものであるようにせねばならないと思うのです。何気なく読んでいる本も、どういう企画を元に作られているのか、思いを馳せてみるのも、また違った楽しみ方ができるかもしれませんね。

 

それではお元気で。

 

 【ジャーナリズム人材育成論】

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